2011年3月27日日曜日

福島第一原発事故と放射線の影響

東北地方太平洋沖地震から、早いもので2週間以上が経過しました。被災地は大変な状況が続いておりますが、首都圏では一時的な物資不足や計画停電を乗り越えつつ、多少平常を取り戻しつつあります。しかし、依然多くの皆さんが気になっているのが、原発の行方と放射線の身体への影響だと思います。前回の記事で多少触れましたが、その後友人の物理学者たちからの情報なども少し増えてきましたので、改めて情報をまとめたいと思います。(ちなみに私の人脈は理学系で原子力技術とは直接のかかわりはありません)

原発周辺における放射線レベルの推移

東大の佐野研でまとめたデータが公開されています。これは公開されたデータを元に片対数グラフにプロットしたものです。
http://daisy.phys.s.u-tokyo.ac.jp/npp/

意図的か何か判りませんが測定地点が途中で変わってきているのは気になる部分ですが、原発近傍でも一時期爆発や火災を繰り返していた時期(3月15日~21日)に比較して、大分レベルが低下(正門前で数百分の一のレベル)しているのがわかります。なんとかこのまま押さえ込んで欲しいところです。決死の覚悟で消火注水作業にあたられた関係者の努力に改めて深く感謝したいと思います。

横浜における放射線レベルの測定値

横浜における放射線レベルの測定値は、横浜市環境情報局が1時間おきのデータをインターネットで公開しています。(前回の記事にも書きましたが)
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/saigai/

震災前に20nGy/hちょっとだったのが、3月16日に150nGy/hを記録し、直近では50程度に落ち着いています。以前の2倍に上昇していて大丈夫なのか?といった不安をもたれる方もあると思いますが、地球上では場所によって、バックグラウンド(自然に存在するもの)の放射線量は異なり、年間の世界平均外部被曝線量が0.8mSvなので、時間当たりにならすと90nSv/hになります。GyとSvとの間には1Gy/h=0.85Sv/hのp関係があるので、年間平均外部被曝量から計算した値をGyに変換すると、90nSv/h=106nGy/hということで、現状の横浜の放射線量は、世界平均と比較しても低レベルであることがわかります。

ちなみに、中国では各都市での放射線量の値を公開していますが、どの都市をとってみても、現在の横浜よりも高い値を示しています。チベットのラサなどは平時から180nもあります。

中華人民共和国環境保護部のホームページ

ちゃんとした一時データではありませんが、こんな記事も

放射線被曝と人体への影響

東工大の中村隆司教授が3月23日に行った公演(放射線を理解するために--素人にもわかる放射線)の資料が参考になります。以前紹介したUCSBの教授の資料よりもより詳しい内容です。

http://be.nucl.ap.titech.ac.jp/RI-lecture.pdf

要約すると
1.一度に0.1Sv(=100mSv)以上の被曝をすると何らかの確定的影響(急性の原爆症のような症状)が出る可能性がある
2.年間被曝量で数mSv程度の被曝が増えても健康に影響が無いと考えてよい。

ということになります。

今後の推移

福島第一原発からの放射性物質の漏洩が現状レベルで収まれば、特に首都圏中心部においては憂慮すべきレベルではないと考えられます。問題は、原子炉が冷温安定化するかという所でしょう。ここに関しては、関係者の不断の努力に期待するしかありません。ただし、原子炉でも使用済み核燃料プールでも臨界状態(核反応が連鎖的に継続すること)ではないし、再臨界に至ったりそれが継続する可能性は意図的に操作(ほとんどテロ行為)しない限りは非常に低いと考えられます。最悪放射性物質の飛散はあるかもしれませんが、チェルノブイリのようにになりません。冷静に対処しましょう。

チェルノブイリ原発事故:黒鉛炉が爆発によってむき出しになり臨界状態が継続しながら炉心が大気中で燃焼し続けた事故。推定10トンの放射性物質が大気中に飛散したといわれる。

参考:radmonitorのページ(Google提供の放射線測定情報)

2011年3月21日月曜日

放射線被曝と人体への影響について

はじめに

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では被災地が甚大な人的・物的な被害を蒙りました。被災されました皆さまには、心よりお見舞い申し上げます。亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災地の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

さて、首都圏住民にも今回の震災は大きな影響を与え、実際に犠牲者が発生するとともに、震災当日は帰宅難民状態、その後も発電所のダメージによる計画停電や、交通機関の混乱、そして物資不足など、実際の被災地に比べれば、天国のような状態ではありますが、混乱した状態が続いております。

また、福島第一原子力発電所の被災は関係者の献身的なご努力により小康状態を保っているものの、潜在的な放射性物質の拡散に関する脅威は払拭されたわけではなく、東日本の住民全員がその行方を見守っている状況です。

私は学部時代は物理学の専攻であったものの、原子力や放射線医学の専門家ではありません。しかしながら、自分自身も気になっておりますので、件名の「放射線被曝と人体への影響について」というテーマで自分で調べて理解した内容に関してまとめておきます。

ここでは一般的な概説を記述しますので、詳細に関してはそれぞれ参照先をご確認ください。

放射線と放射性物質

放射線とは一般に高エネルギーの電磁波や粒子線のことを指し、代表的なものとして、

α線(ヘリウム原子核が飛んでくるもの)
β線(電子が飛んでくるもの)
γ線(波長が10pmより短い電磁波)
中性子線(中性子が飛んでくるもの)

等があります。

放射線を発生する能力を放射能といい、放射能を持った物質を放射性物質といいます。

参照1:Wikipedia「放射線」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A

放射線への被曝とその定量化

人体が放射線に晒されることを被曝といいます(原爆投下の時の被爆者とは漢字が違いますので混同せぬように)。

被曝には外部から放射線に被曝する外部被曝、体内に取り込んだ放射性物質によって被曝する内部被曝、そして自然界に存在する放射線によって被曝する自然被曝があります。

どの程度の量を被曝したのかを定量化する単位としてシーベルト(Sv)という単位があります。前述の放射線の種類によって人体への影響度が異なりますので、種類によって重み付けが行われており、被曝量として大きいシーベルト値を持つ場合ほど人体への影響は大きいといえます。

被曝による身体への影響としては、短期間に多量被曝を受けた場合は組織の破壊などによる急性症状(いわゆる原爆症)が生じることがあり、場合によっては死に至ることもあります。その他の場合にはDNAの損傷とそれに起因する悪性腫瘍の発生。また、胎児や乳児への影響が考えられます。

福島第一原子力発電所の事故で放射線量として、何mSvとか何マイクロSvといった単位で数値が発表されることがありますが、この数値は実際は時間当たりのもので(何mSv/時間)といったほうが正確です。例えば、1mSv/hの環境に2時間滞在した場合の被曝量は 1mSv/h x 2h = 2mSvになります。

参照2:Wikipedia「被曝」
http://bit.ly/hGDec2

参照3:Wikipedia「シーベルト」
http://bit.ly/fcxHTW

自然被曝

原発事故による放射能漏れのような事態でなくても、放射線は我々の周囲に存在して、我々は日常被曝をしています。

放射線は宇宙線として宇宙から飛来するものもありますし、地殻から発生するものもあります。特段人工的な放射線にさらされなくとも、太古の時代から我々は常に放射線に被曝しているのです。

自然界に由来する放射線への被曝の量は、地球上の場所によって異なり、標高の高い場所では宇宙線の影響で低地よりも多く被曝しますし、例えばウラン鉱山の近くの住民はそうではない場所よりも多く被曝することになります。

自然被曝の量としては、年間1.5mSvから7mSvという情報があります(参照4)。参照4によれば標高の高いDenverの住民だと年間1mSv増し、航空乗務員だと年間で数mSv増しということになるそうです。

人生80年間生きるとすると、自然被曝の積算量としては120mSvから560mSvということになります。世界平均で自然被曝の量は年間2.4mSvなので、平均的には一生の間に192mSvの自然被曝を受けることになります。

一方で、年間2.4mSvの被曝量を時間当たりに変換すると、0.27マイクロSv/hに相当します。先日の観測結果では横浜市の放射線量は0.08マイクロSv/hでしたから、現状は自然の放射線のレベルと大差ないということになります。

参照4:「福島原発の放射能を理解する」(カリフォルニア大学のモンリオール氏による講演のスライド)
http://ribf.riken.jp/~koji/jishin/zhen_zai.html

日常生活による被曝

上記の自然被曝の他に、人為的な行動や人工的な放射線による被曝も日常で経験します。これに関しては参照3に表が掲載されていますので、ご参照ください。例えば

0.1-0.3mSv  胸部X線検査
0.2mSv        東京-ニューヨーク間を飛行機で往復
4mSv           胃のX線撮影
6.9mSv        CTスキャン

例えば私の場合、年に一回人間ドックで胸部X線撮影、胃のX線撮影、CTスキャンを受け、年に一度米国に出張しますので、前述の自然被曝2.4mSvに加えて11.4mSvの被曝を受け、合計で13.8mSvの年間被曝量になります。

長期積算被曝とその影響

長期にわたって少量の被曝が積算した場合の影響としては、ガンの発生リスクの上昇があります。これは、被曝によってDNAの変成が生じることがあり、DNAの変成が細胞の変成を生じることがあり、細胞の変成がガンを生じることがあるためです。参照4によれば、1000mSvの被曝が積算した場合各種のガン発生率が0.2%程度上昇するという疫学的調査があります。

しかし、参照5に示すように現在日本におけるガンの生涯罹患率は約50%であり、被曝によるガン発生率の0.2%上昇は特に中年以降においてはリスクとしてはあまり意味をなさないのではないかと思われます。

参照5:「累積がん罹患・死亡リスク」 財団法人がん研究振興財団
http://www.fpcr.or.jp/publication/pdf/statistics2010/fig09.pdf

短期大量被曝

一方で、原爆への被爆や放射性物質の大量飛散などの事態で、短期間に大量に被曝した場合には被爆量に応じていろいろな急性症状が発生し、その量によっては死に至ることもあります。その影響に関しては参照3の表をご覧ください。抜粋すると

250mSv   白血球の減少
500mSv   リンパ球の減少
1000mSv 急性放射線障害。悪心(吐き気)、嘔吐など。水晶体混濁。
2000mSv 出血、脱毛など。5%の人が死亡する。

おおむね1000mSvを超えるとヤバイ状態で5000mSvを超えると死ぬ感じですね

ただし、現状では防護服なしで福島第一原発に入って何時間も滞在しないとこのレベルには至りません。

原発周囲で11.9mSv/hが観測されましたが、それはピーク値であり継続したものではありません。たとえ1時間継続して防護服なしで被爆したとしても11.9mSvの被爆量になります。最悪放射性物質が原発から飛散したとしても、距離の2乗に反比例して拡散していきますので、離れた場所ではもっともっと小さい値になるはずです。

少量の被爆に関して

数十mSvから100mSvの被爆があった場合、健康にどのような影響が発生するかは、残念ながら疫学的検証が取れていないようです。微小なレベルでのガン発生率の上昇はあるかもしれません。

ただし、放射性ヨウ素の体内摂取には注意が必要で、体内では甲状腺に集中するため特に若年層では甲状腺の機能障害を発生させる可能性があります。

現状に関して

2011年3月21日現在福島第一原発では放射性物質の大量放出のような最悪の事態を起こさないために関係者による最善の努力が続けられています。現状の測定データ(参照6)を見る限り、3月16日に多少の上昇を見たものの(それでも自然被爆の範囲内)、その後は落ち着いており、首都圏においては特段の危険は無いものと考えられます。

今後は参照6の測定データをモニタしつつ参照7の注意事項を参照しながら注意深く情勢を見極めることが重要と思われます。

参照6:「横浜市内における放射線量の測定状況について」
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/saigai/

参照7:「放射性物質が体内に入ったら? 京大・渡邉教授に聞く」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/disaster/498063/

以上とりいそぎ

ブログ中断のお詫び

今年に入ってから、入院やら手術やらでブログの更新ができていませんでした。これから、少しづつ復旧しますので、よろしくお願いいたします。