2012年5月6日日曜日

反原発と脱原発

<三溪園の記事をお休みにして、脱原発のことを少し書きます>

2011年3月11日に日本列島を襲った東日本大震災。大地を揺るがす強烈な揺れとその後に広範囲を襲った大津波。2万人近くの死者行方不明者を出し、また、震災に伴う副次的な災害によって、日本経済にも深刻な打撃を与えました。その副次的な災害の中で、最大のものが福島第一原子力発電所の事故でありました。

事故の詳細に関しては、他の記事によるとして、概要としては、大震災とそれに続く大津波に襲われ、稼働中の1号機及び2号機の運転停止は達成できたものの、その後の電源喪失によって、継続的な冷却ができず、炉心溶融、水素爆発などを引き起こし、放射性物質を広範囲にまき散らしてしまったというものです。事故処理はまだ緒に就いたばかりであり、すでに決定した廃炉に向かって数十年がかりで前人未到の困難な作業工程をこなしていく必要があります。

この事故を受けて、原発の危険性に関する認識が高まり、反原発の機運が盛り上がりました。また、そういった世論の中、全国の原発の見直しや点検が相次いで実施され、とうとう、5月5日には国内50基残った(福一の1~4号機は廃炉なので除外してある)原発がすべて停止する状況に至りました。

今のところ、原発を稼働させなくても、電力の不足という事態には至っていません。私も原発に関して積極的に賛成するものではありませんので、反原発論者の方々が主張されるように、このまま再稼働なしに過ごせればそれに越したことはないと思っています。しかし、このままで本当に乗り切れるのでしょうか?

東京電力の発電設備の一覧に関してはこちらのWEBページにまとまっています。この資料によりますと、2010年3月末現在の総発電能力は、原子力(廃炉になった福一1~4号機も含む)も含めて、6498.8万キロワットになります。以下、その内訳です。

水力    898.1万キロワット  (13.8%)
火力    3869.6万キロワット (59.6%)
原子力 1730万キロワット   (26.6%)
その他 3.4万キロワット      (0.05%)

原子力発電をすべて停止したとすると、東京電力の総発電能力は4768万キロワットになります。しかし、当然定期点検や、改修工事や修理などが発生しますので、発電所の稼働率が100%ということはあり得ません。また、水力発電所の発電量には揚水発電(電力需要の低い深夜帯などの余剰電力を利用して水をくみ上げておく、いわば蓄電池のようなもの)量も少なからず含まれていますので、すべてが純粋なエネルギー源というわけではありません。その他にはいわゆる再生可能エネルギー(風力、地熱、太陽光)による発電が含まれますが、全体の発電量からすると、現状ではまったく微々たるものです。

これに対して、実際の需要を見てみましょう。 東京電力のこちらのWEBページに過去の電力需要データが掲載されています。

まず震災の影響を排除できる、2010年のデータを見ますと、8月23日にピーク需要を記録しており、ピーク時で5888万キロワット(同日の最低時刻で3376万キロワット)の需要がありました。一方で、震災の記憶が生々しく、また、各企業や家庭でも節電に務めていた、昨年、2011年のデータを見ると、8月18日にピーク需要を記録していまして、4922万キロワット(同日の最低時刻で3350万キロワット)の需要がありました。昨年は、製造業で勤務日を平日から週末にシフトするなり、かなりの犠牲を払ってピークシフトを行いましたが、それでもこんなものでした。この需要は東京電力管内の原子力を除くすべての発電所を100%稼働させたとしても供給できない需要です。また現実に、、無理やり稼働率を上げたたり、休止中を再稼働させた火力発電所は、老朽化などでいささか危ない状況でもあるようです。他の電力会社たとえば東北電力からの供給も東京電力として計算には入っているようですが、それにしても綱渡りの状況は間違いありません。

現在原発を全停止してもなんとか需要を賄えているのは、5月の需要が少ないためです。たとえば本日の需要予測は、最大で3210万キロワット(供給能力は3650万キロワット)にすぎません。現在はちょうど良い気候で、冷房も暖房も必要ないからです。昨年と同じように節電を図ったとしても、夏場のピーク需要を乗り切るためには、少なくとも柏崎は再稼働せざるを得ないでしょう。

原子力発電には経済的や戦略的なメリット(化石燃料の輸入を止められたとしても、発電を継続できる)がありますが、ひとたび大規模な事故を引き起こせば、その影響は重篤なものがあります。従って、長期に渡って、原発なしに成り立つ方策を考える必要があると思います。いわば脱原発です。しかしながら、化石燃料に頼る火力発電が完全に安全かというと、燃料の流出に伴う環境汚染や火災の危険もゼロではありませんし、常に資源国の顔色を伺いつつ、国際的な相場にも左右される状況が国家戦略的に見て正しい戦略かというと、それもどうかということになります。間違いなく電力のコストも上昇します。また、ダムの建設によって広範囲に環境破壊を引き起こす大規模な水力発電所の新設が容易かというとそうでもありません。現在「その他」に含まれる再生可能エネルギーや小水力発電など、代替エネルギーの開発も緒に就いたばかりであり、原子力発電の穴埋めをできる規模では全くありません。

一方で、原発の危険性というのが、原子炉の運転を停止していればまったく安全かといえば、危険性は幾分下がるものの、その後、継続的に冷却できなければ福島第一と似たり寄ったりの 状況を作り出してしまいます。今ある原発は止めていても動かしていても危険性に大きな差があるようにも思えません。もちろん廃炉を前提に段階的に作業を行えば、数年後には安全度は引き上げられるでしょうが、廃炉費用や使用済み核燃料の処理など、多額の費用を負担せざるを得ないのも事実です。どこまでは大丈夫か、という線引きが難しいのは承知しておりますが、使えるものは使うべきではないでしょうか?原発設備も古いものと最新のものでは安全性にも差があるはずだと思いますし、また、今回の事故から得られた貴重な経験(補助電源のあり方、緊急時の手順、津波対策など)も既存の原発の安全性向上に寄与できるはずです。

長期的には脱原発の方向性は取らなくてはいけないと思いますが、現実的な解としては、より一層の安全性を確保した上で、原発の再稼働を容認して、電力の安定供給を確保し、その上で、戦略的にエネルギー政策を考えていく必要があると考えています。

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